統合的交渉とは
交渉と聞いて、皆さんはどんなイメージを持ちますか?一般的な「固定パイ理論」に対して、私が授業で紹介しているのは「統合的交渉」です。これは、お互いの利益を最大化するアプローチで、交渉を単なる利益の奪い合いではなく、共創のプロセスとして捉えます。
ネゴシエーションをWSで実施する難しさ
大学での講義の他、企業研修などでもネゴシエーションのWS(Workshop)を実施しているのですが、「統合的交渉」の本質を理解&体感してもらう難しさを感じることが多くあります。
例えば、よく使われるケースとして「給料の交渉」や「中古自動車を売り買いする」などがありますが、結果を聞いてみると
学生の場合:
「そもそもお給料って交渉できるんですか?」(終わってから聞かないでぇ〜💦)
「いくらもらえばいいのか、実はよくわからなかった…」(確かにねぇ…)
社会人の場合:
「思い切ってすごい額を提示したんですけど、意外におっけーでした❗」
(まぁ、模擬交渉ですからねぇ…💦)
この程度ならまだしも…
学生の場合:
「すごい強面で強く出られたので何もいえなかった」
「勝ち負けにこだわってしまった」
「向こうの言い分に負けないような提案をした」
と、そもそも「統合的交渉」の意味を完全に忘れて臨んでいる学生もいたりして、どうしたものかしらと思っていました。
なぜ難しい?
ネゴシエーションをWSで実施する難しさはいくつかあると思います。
その1:自分ごとになりづらい
その2:「交渉」そのものの知識やスキルに時間を割いてしまう(大切なのは交渉前の環境づくり)
その3:仮説検証を繰り返すことが難しい
今年は、この3つの難しさを克服する授業のデザインを考え、実行してみました。
授業デザインー5つのステップ
自身が担当する講義「プレゼンテーション」のクラスでは、毎年決まったテーマで数分のプレゼンテーションを考える期末課題(グループ課題)を出しています。
今年はその期末課題を使って、以下のステップを実行してみました。
ステップ1:交渉のネタを「期末課題」とリンクさせる
ステップ2:最初は2人組ペアで期末課題に向かわせ、ある程度のところまで案を作り、熱意のこもった案(=自分たちの案が一番だと感じるレベル)にさせておく
ステップ3:本番のネゴシエーションまでに、2回程度の練習ネゴシエーションをする。練習では特に「ネゴシエーションの場作り」についてしっかり作戦を立てて臨むよう指導する
ステップ4:2回の練習ネゴシエーションでは、毎回相手ペアを変えながら自分たちの仮説を検証する機会と、案自体の質向上の機会を提供する
ステップ5:本番ネゴシエーションの2ペア(4人)は、期末課題グループとなり、以降は最終発表まで協力して1つのプレゼンを作り上げる
第2回講義での話し合い…集まってはいますが、なんとなーく背中に覇気がなく、伏し目がちな様子。第9回の話し合いと比べてみてください。
はてさて結果は???
先週の水曜日に本番ネゴシエーションが終わったばかりですが、今回のステップは非常にうまく作用してくれた気がします。
学生からは、
- 「交渉で一番大事なのは、いかによい場を作ることかなんだと思った」
- 「交渉は下準備が本当に大切」
- 「自分たちがいい案を持っていないとうまくいかない」
- 「場を作ることで、沢山会話できることがわかった」
- 「第1回講義から練習している”相手に背を向けないように意識する””まずは相手の意見を肯定する”等がだんだん身についてきた」
- 「コミュニケーションが上手な人は、話が上手い人だと思っていたが、本当は場作りがうまい人ではないかと思い返してみたら、確かにそういう人が多かった」
- 「プレゼンテーションもネゴシエーションも、自分が言いたいことを言うのではなくて、双方向なものであることがわかった」
等、実感を伴ったふりかえりが多く聞かれています(昨年のふりかえりとテキストマイニングで比べてみたいくらいです笑)。
こうしたふりかえりを読んでいると、今年は講義のデザインを少しだけ工夫することで、統合的交渉を理解することだけでなく、「議論」の本質を提供できたように思います。
第9回講義の様子。私の色眼鏡かもしれませんが、顔の表情がびっくりするほど豊かになりました。動画でお見せできないのが残念💦
私自身のふりかえり
私自身、コミュニケーションというのは本来双方向なものだと思っているのですが、昨今はそうでもないのかもしれないと学生のふりかえりを見ていて思います。そうした中では、話術や知識にどうしても目が行ってしまうのかもしれませんね。
ネゴシエーションそのものを経験する機会はそれほど多くないかもしれませんが、双方向のやり取りを通じて、よりよいものを作っていくことができる力は、実は様々な世界で活用できますし、何より自分の人生を豊かにしてくれるのではないかと思います。